文化研究(03/01)
希望のビジネス戦略(金子勝/成毛眞)
どん底にも光あり。/ちくま新書  
2003. 1. 15.

教育テレビのETV特集だかでちょっといい話をしていたので、入門バクロ経済学の金子某の最新作(立ち読みで見出しだけは読んでた)をも一度見ようと思ったら、平積みなのに最後の1冊。思わず購入してしまいました。

テレビで言ってたちょっといい話とは何だったか? ひどく大まかにかつ尾ひれをつけて言えば。
フリーターといえど週に5日、9時から5時まで働いてるバイトや派遣社員がいる。正社員になろうかと思ったら居酒屋やファミレスの店長で睡眠3時間とか。フリーターの方がよっぽど幸せに生きる可能性があるやんけ。しかしながら、老後のことを考えたら社会保障はまったく無責任。
また、地方や社員、取引先の頬を札びらで叩くようなことがまかり通っている。例えば、地方から陳情と称して屈辱的な中央参りをしてお金や仕事をもらってる。こんな不公正が満ちてる社会に希望が持てますか?


で、金子某は、社会の希望を取り戻すための方策をあれやこれや考えるのですが、竹中某を初めとする同業者である経済学者はまったく出鱈目ばかりを言っていると嘆いておられました。

まったく朝鮮戦争からオイルショックまでと同じ、景気回復あるいは成長率にしか現状の変革を望めない世の大勢と違うところにわたくしは金子某を評価する気になってます。下の名前まで覚える気がないけど。
未来を見ないで過去のよかったところで癒されようとしてる、古い歌が流行ったり。プロジェクトXとか。とも言ってました。が、番組終了直後の番宣はプロジェクトX。

そんなわけで、本書「希望のビジネス戦略」を一気に読んだのですが、どこにも希望はありません。てゆーか、たぶんビジネス書好きが望むような方策がどこにもないのでざまぁみろという感じで爽快なぐらいであります。
さすが筑摩書房。もし、日経BPの企画だったりしたら、担当編集者は頭を抱えて対談の話題を補足するデータやなんかを図表でねじこんでちょっとでも役に立ったような気にさせる仕掛けをいれてハードカバーで3,200円ぐらい取ったでしょう。ちなみに本書は680円。
しかしながら、金子某が初めからそのような読者を突き放すつもりが念頭にあったわけではない様子。一応、対談相手の成毛某から方策や突破の糸口みたいなものを引っ張り出そうと再三その手の問いかけを投げます。が、成毛の回答はたいてい「ダメですね」みたいなのばかり。
成毛はマイクロソフト日本の社長を10年ほどやった後、旧来の主に製造業などの業種に属する企業を、投資会社を募って、かつ自社でも投資したうえでコンサルティングをするという新しい経営相談会社を起業して成功させた輩であります。

一人でしゃべらすと、一時の「社畜」を流行させた親爺みたいな抑圧労働者(フリーター、団塊世代老害に遭ってる年金もらえない40代前半以下30歳ぐらいまでの高学歴ホワイトカラー)のガス抜き機能で終わってしまいかねない金子某の論を、シビアなとこも持ち合わせてる経営者とのカラミで問題を指摘するだけでなく、方策・ヴィジョンを出さしめるというのが、この人選のひとつの狙いだったのかもしれません。が、成毛は問題意識において金子と相容れるものの、方策は個別であることを譲りません。
結局は、終章から成毛によるあとがきにあるようにポトラッチ的快楽を伴う経済人類学的な共同体の再生というような結論めいたところにいたるのであります。
具体策として成毛は国民投票と債券市場を挙げているので、ポトラッチ的といっても決してプレ近代のそれを差しているのではないことを誤解なきよう。

問題意識において共通するようなことを言ってますが、金子と成毛の相違点として、日本社会を論じるときのマジョリティが誰なのか。誰が希望を持てば社会閉塞の現状を抜け出せるのかで大きな隔たりがあります。
金子は先ほど出てきた抑圧労働者。団塊世代の食い逃げのいちばんの被害者。わたくしも含め当サイト読者の皆様も大概ここに属するかと思われます。また、わたくしが評価するのもわたくしがメインターゲットに属しているからとも言えるかもしれません。
一方、成毛が思う日本社会は成毛の言によれば、免許の書き換えに行ったときに見た耳にピアスの若造や座り込んでマンガ読んでるサラリーマン
わたくしも、行楽シーズンの高速道路のサービスエリアやD社のテーマパークで見る老若男女に何ともやるせない気分にさせられます。都市でホワイトカラーをやってる皆さんは滅多に見ない人々が大挙して軽度の公衆道徳違反をやってる我が国の日常。競輪場ではもっとすごいことが起こってたりしますが、彼らはほぼ全員ある種のアウトサイダー。そうでない、極一般的な老若男女が集まって生活空間から少し離れたところでの様に何とも言えない絶望感を感じるのであります。彼らが小渕の娘を当選させたりする人々なのだろうな、とか。わたくしが我が国をしてヤンキー立国という所以のひとつであります。

いずれにしても、成毛はヤンキー立国の万人を幸福たらしめることに関心はないものの、疲弊する産業界の復興のためには団塊世代にお引取りいただきビジネスチャンスだらけの我が国で商売がやりやすい環境を作りたいと願っているようです。
金子の方は、それぞれの価値観の幸福に向けて努力する気になるような社会の流動性と公平性を実現するために団塊世代にお引取り願いたいと思われているようであります。

そんなわけで、わたくしにビジネス戦略のようなものはまったく無いにもかかわらず、両者のご意見には共鳴するところ多々あったわけであります。

経済成長、景気回復をほとんど無条件によしとするような輩が多い中、竹中君が目立ってくれたおかげでアンチ竹中な金子某などに、冷や水をかける役割でお鉢が回ってきたことは日本ポルトガル化計画の邁進への一助と感じております。ニッポン放送とニュースステーションによく出てくる森永某とか。
余談ながら小谷まおこのテレビ東京のニュースで解説やってる親爺もちょっといいです。竹中君に与するインフレターゲット推進派の学者を悉く論破してて痛快でした。
皆さん、考えてみていただきたい。大手金融機関を除いてとことん構造改革でやせ細ってる事業会社が多い中、インフレターゲットによる市中貨幣供給過剰なバブル景気が一瞬起こったところで、事業会社がおいそれと(単純労働を除いて)人を雇うはずもないですから、抑圧労働者はバブル期以上に過労死しまくることになるでしょう。
そんなわけで、イマケイ的には、高学歴ホワイトカラーの皆さんが半分の仕事で半分の給料で幸福に暮らせる社会政策を追究していきたいと思います。まずは、厚生年金の廃止と国民年金の(世代間から)所得間再分配への転換。